認知症徘徊コラム

一人暮らしの認知症の親が徘徊?別居する子供ができること


 総務省統計局が発表した令和2年国勢調査によると、65歳以上の高齢者の単独世帯は2005年から2020年にかけて年々増加傾向にあります。
65歳以上の人口のうち19%が一人暮らし世帯となっており、男性は7人に1人、女性は5人に1人の割合で一人暮らしをしているという結果が報告されています。

 高齢者の一人暮らしにおいて、地域との関わりがなくなると孤立感を生じたり、生きがいが持てなかったり、心身ともに健康状態が不良という状態に陥りやすくなります。
また、さまざまな危険も伴い、認知症を患うと「徘徊」で事故や事件に巻き込まれる可能性も大きくなります。
このようにさまざまな問題が出てくると、離れて暮らす子供にとって、認知症を患っている親の心配は尽きませんよね。

 
 今回の記事では、一人で暮らしている認知症の親に対して子どもができることや、徘徊対策・予防方法などを紹介しています。
問題をひとりで抱え込まず、社会資源を十分に活用し周囲に頼りながら、一人暮らしをしている親を見守っていける環境が作れると良いですね。

 

1.一人暮らしの認知症高齢者の徘徊問題と対策は?

 認知症の周辺症状としてみられる「徘徊」は、家族の悩み事の一つとして多くあげられます。
家族や介護者が一緒に住んでいたり、通える距離に住んでいたりすれば、徘徊した際にはすぐに対応できます。
しかし、遠方に住んでいる場合は、すぐに駆けつけられないといった大きな課題を抱えてしまいます。

 アルツハイマー型認知症を時間経過でみた場合、「徘徊」は第二期(中期)にあたります。
精神症状や問題行動が顕著に現れる時期であり、徘徊は対処が難しい周辺症状ということが言えます。
出来る事なら徘徊が見られる前に、対策をしておくと良いでしょう。

要介護認定の申請と介護保険サービス
 厚生労働省によると、介護保険で利用できるものは、26種54サービスあると公表しています。
徘徊対策には、訪問介護や徘徊感知機器など、福祉用具貸与の福祉サービスがおすすめです。

 また、保険を使って介護サービスを利用する場合には、要介護認定の申請が必要です。
申請の際には介護保険被保険者証を準備し、お住いの市区町村の窓口に行きましょう。
40歳〜64歳の方が申請する場合は、医療保険証が必要になってきます。

申請した後は
1. 認定調査
2. 介護認定審査会による判定
3. 認定通知
4. 介護サービス計画書の作成
5. 利用開始

と言った流れになり、サービスの利用までに概ね30日前後かかります。
しかし、認定結果が出る前に申請日までさかのぼって利用できる場合もあるため、一度相談してみましょう。

GPSなどで徘徊対策
 徘徊を防ぐことや、徘徊をしてしまった際の早期対応は、GPSや徘徊感知機器などで対策を取っておくと良いでしょう。
GPS機器は様々な携帯方法が出来、もちろんそのまま携帯することもできますが、専用袋に入れて衣服に縫い付けたり、シューズの底に入れ込む事もできます。

 徘徊感知機器では、ベッドから離れたり玄関の開閉などがあったら通知が届く機能を備えているものもあります。
徘徊を防ぐ対策・徘徊をした時の早期対応として、いくつか組み合わせておくと、離れて暮らす子どもも安心できます

見守りカメラの利用
 一人暮らしをしている認知症の親が今何をしているか、徘徊していないかなど確認をする時に見守りカメラが役立ちます。

遠方で暮らしているからといった理由の他に、
「日中仕事で一人になるから」
「夜間の様子を見たい」
などで見守りカメラを導入しているご家族もたくさんいます。

 また、体調や薬の飲み忘れはないかなど確認をしたいという時にも役に立ち、カメラに会話ができる機能が備わっていれば、気軽に確認することができます。

地域のSOSネットワークに登録
 子どもが遠方に住んでいる場合、地域の認知症高齢者見守りサービスに頼ることも大切です。
ほとんどの都道府県では、認知症の高齢者やそのご家族が安心して暮らせるように、認知症高齢者見守りネットワークの事業を行なっています。

 例えば、金沢市では「みつけてネット」という認知症高齢者見守りサービスがあります。
行方不明になりそうな高齢者の情報(顔写真や氏名、生年月日など)をあらかじめ地域包括支援センターに登録することにより、徘徊などで行方不明になった時に早期発見・保護に繋げることができます。
地域で取り組んでいる施策は、高齢者にとってとても身近な存在であり、高齢者の安全だけでなく、ご家族の不安・負担も軽減できるというメリットが得られます。

2.認知症の徘徊感知機能の利用状況は上昇

 2007年〜2017年の10年にかけて、認知症の徘徊感知機器の利用状況は上昇しており、1年で貸与数が37.9件だったのが、2017年時点では391.6件となりました。
福祉用具貸与や見守り支援などの事業が積極的に手がけられて競合が増え、1件あたりの貸与金額が8,026円から6,200円に低下したことにより、気軽に借りやすくなったことも普及した要因の一つでしょう。
徘徊感知機能やGPS機器は、認知症高齢者の一人暮らしに大いに役に立ち、導入しやすいといった利点を持つようになりました。

3.一人で抱え込まず周囲や福祉サービスに頼ろう

 認知症の高齢者が一人暮らしをするということは、徘徊だけでなく様々な問題が生じやすくなります。

●食生活
●服薬問題
●金銭管理
●火の不始末
●ご近所トラブル
などです。

 家族の介護やサポートだけでは、一人暮らしの認知症患者の親を支えることは非常に困難なものです。

 しかし、訪問介護や通所事業などの福祉サービスのほか、地域のボランティアといったものも数多くあり、周囲にSOSを出すことで解決できる問題もあります。
それらを上手に活用し、一人で暮らす高齢者やその家族が少しでも安心して生活できるよう、環境を整えていくことが今私たちにできることの一つと感じています。
そして、子どもが一人暮らしをしている親に出来ることのひとつとして、困ったことや不安なことがあれば、まずは市町村窓口に相談してみましょう。

参考記事
・総務省統計局 令和2年国勢調査 Ⅴ.世帯の状況
・健康長寿ネット 高齢者の独居問題
・健康長寿ネット 認知症の周辺症状 表1:周辺症状の分類
・厚生労働省 サービス利用までの流れ
・金沢市 認知症高齢者地域見守りネットワーク事業
・社保審-介護給付費分科会 福祉用具貸与(参考資料) 福祉用具貸与の給付件数と1件あたり費用額の推移・
・公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット 認知症老人徘徊感知機器の利用状・

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執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代2児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。

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