徘徊演習

徘徊演習「マルチパス干渉」は起きるのか?@チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン

2026年4月19日(日)、山梨県富士吉田市で開催された「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」にて、認知症徘徊GPSセンターの徘徊演習を実施しました。

今回のテーマは、ずばり「マルチパス干渉」は起きるのか?です。

これまで認知症徘徊GPSセンターでは、横浜マラソンでの高速道路上の測位、柴又100Kでの100km移動、青梅高水国際トレイルランでの山道30km、柏の葉公園での3km周回コース、神奈川県から岩手県までの約500km移動、飛騨高山ウルトラマラソンでの山間部の追跡・見守りなど、さまざまな環境でGPS端末の測位状況を検証してきました。過去の演習でも、10分ごとの自動測位で移動経路を線でつなぐことの重要性や、山間部・峡谷では測位精度が一時的に低くなることが確認されています。

今回のチャレンジ富士五湖ウルトラマラソンは、富士山の麓、湖、山道、林道、トンネル周辺など、GPSにとってもなかなか手ごわそうな環境がそろっています。

「湖の水面で電波が反射したらどうなるのか」
「山に囲まれた場所では位置が大きくずれるのか」
「10分毎の自動測位で、100kmの移動経路はきちんと追えるのか」

そんな疑問を確認するため、今回もGPS端末を携帯し、自らの足で100kmの徘徊演習?に挑戦してきました。

■徘徊演習概要

日  程:2026年4月19日(日)
場  所:山梨県富士吉田市(スタート・ゴール:富士北麓公園)
種  目:FUJI 4LAKES 100km(コース:本栖湖をのぞく四湖を走るコース)
使用機器:GPS端末(10分毎の自動位置検索)
天  候:晴れ
気  温:平均気温14.4℃ / 最高気温22.3℃ / 最低気温6.0℃ ※河口湖の気象データ

■今回のテーマ「マルチパス干渉」とは

GPSは、人工衛星から届く電波を受信して現在地を測位します。しかし、建物、山肌、樹木、水面などに電波が反射すると、端末に直接届いた電波と、反射して遠回りして届いた電波が混ざることがあります。これが「マルチパス干渉」です。簡単に言えば、GPS端末が「衛星からまっすぐ届いた電波」だと思って受信したものが、実は山や水面に反射して少し遅れて届いた電波だった場合、現在地の計算にズレが出ることがあります。

認知症徘徊GPSセンターの過去の 飛騨高山ウルトラマラソンの演習でも、山間部・峡谷に近い場所では、GPS衛星との接続数が減少したり、山肌で電波が反射するマルチパス干渉によって誤差が生じた可能性があると整理されています。また、同記事では、緑色の時計マークが測位精度「高」、青色が「中」、赤色が「低」とされ、赤色の場合は誤差範囲が400m以上になることもあると説明されています。

つまり、今回の富士五湖のように、湖と山に囲まれた環境は、マルチパス干渉が起きる可能性を確認するにはちょうどよい、いや、できれば走る側としてはちょうどよくない、とても過酷な検証場所だったわけです。

■徘徊経路

今回参加したFUJI 4LAKES 100kmは、富士北麓公園をスタート・ゴールとし、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖周辺を走るウルトラマラソンです。大会名は「富士五湖」ですが、今回の種目は本栖湖をのぞく四湖を走るコースです。スタート直後はまだ暗い時間帯で、気温も低く、日中は晴れて気温が上がるという、長時間屋外でGPS端末を携帯するには、なかなか実践的な環境でした。

認知症による徘徊では、数十分で見つかる場合もあれば、数時間、半日、場合によっては1日以上にわたって移動してしまうこともあります。過去の100km演習でも、現在地だけではなく「どの時間に、どこを通って、どちらへ向かっているのか」という移動経路を把握することが大切だと整理されています。今回も同じように、単にゴール地点で測位できるかではなく、10分ごとの自動測位で、移動の流れが地図上にどのように表示されるかを確認しました。

■結果:大きなマルチパス干渉は確認されず

当日の管理画面キャプチャーを見ると、紫色の移動経路に沿って、GPS端末の測位ポイントが連続して表示されています。富士北麓公園周辺から河口湖、西湖、精進湖方面へ向かうルート上に、時計マークがほぼコースに沿って並んでおり、10分ごとの自動位置検索によって、長距離移動の流れを十分に確認することができました。

特に注目していた湖周辺では、水面の反射による大きな位置飛び、つまり「湖の中に突然ワープする」「山の反対側に飛ぶ」といった極端なズレは、キャプチャーを見る限り確認されませんでした。もちろん、GPSですので数メートルから数十メートル程度の誤差はあります。また、10分ごとの測位地点を線で結んで表示しているため、実際に走った道路や歩道を完全になぞるわけではありません。過去の柏の葉公園での3km周回コース演習でも、測定地点同士を線で結ぶため、実際には通っていない池の上などに線が引かれることがあると確認されています。

今回も同じで、地図上の線は「実際にその線上を移動した」という意味ではなく、「測位された地点と地点を結んだ移動の目安」と見ることが重要です。

■湖・山・トンネル周辺で気をつけたいこと

今回のキャプチャーでは大きな位置飛びは見られませんでしたが、富士五湖周辺のような環境では、GPSの測位精度が低下する条件がいくつもあります。たとえば、山に囲まれて空が狭くなる場所では、端末が受信できる衛星の数が減ることがあります。湖畔では水面による電波反射が起こる可能性があります。樹木が多い場所、トンネルの出入口、建物や斜面の陰になる場所では、一時的に位置情報が不安定になることも考えられます。

飛騨高山の演習では、山間部・峡谷で一部の測位精度が低く表示され、ログイン後に「現在地測位」を行うことで解消されるケースもあるとされています。そのため今回の結果は、「マルチパス干渉は絶対に起きない」という意味ではありません。正しくは、今回のチャレンジ富士五湖ウルトラマラソンの徘徊演習では、湖や山に囲まれた環境であっても、捜索や見守りに大きな支障となるような目立ったマルチパス干渉は確認されなかったという結果になります。

■認知症徘徊の見守りで大切なこと

認知症の方の徘徊・行方不明対策では、「今どこにいるか」だけでなく、「どこから来て、どこへ向かっているのか」を見ることがとても重要です。

現在地の点だけを見ると、GPSの誤差に振り回されてしまうことがあります。しかし、10分ごとの自動測位で記録された複数の点をつないで確認すると、移動方向、移動速度、立ち寄った可能性のある場所が見えてきます。これは、家族が迎えに行く場合にも、警察や地域の方に協力をお願いする場合にも、とても大きな手がかりになります。

過去の約500km移動の演習でも、認知症の方が車やタクシーなどで想像以上の距離を移動してしまう可能性があることに触れられていました。徘徊という言葉から「徒歩で近所を歩く」イメージを持ちがちですが、実際には電車、バス、タクシー、自動車などが関わることもあります。

だからこそ、GPS端末は「近所の見守り」だけでなく、「想定外の移動に気づくための備え」としても役立ちます。

■今回の気づき

今回の富士五湖での徘徊演習では、次のようなことが確認できました。まず、10分ごとの自動位置検索でも、100kmという長距離移動の経路はおおむね把握できました。次に、湖や山に囲まれた環境でも、当日のキャプチャー上では大きな位置飛びは目立ちませんでした。また、測位ポイントが連続して残ることで、「どの時間帯に、どの方面へ移動していたのか」を後から確認できることも、改めて大きな安心材料だと感じました。

一方で、GPSの線は道路そのものを正確になぞるものではありません。あくまで測位地点をつないだ線です。実際の捜索では、1つの点だけを見て判断するのではなく、前後の履歴、測位精度の色、最終測位時刻、周辺環境をあわせて確認することが大切です。

◎まとめ
徘徊演習「マルチパス干渉」は起きるのか?@チャレンジ富士五湖ウルトラマラソンの結果は、湖や山に囲まれた富士五湖周辺でも、今回の演習では大きなマルチパス干渉による位置飛びは確認されず、10分ごとの自動測位により移動経路をおおむね把握することができた。という結果になりました。

ただし、GPSは万能ではありません。

山間部、湖畔、トンネル、建物の陰、地下、屋内などでは、測位精度が低下したり、位置情報が一時的に不安定になったりすることがあります。だからこそ、GPSを使う側も、測位の仕組みや誤差の可能性を理解しておくことが大切です。認知症徘徊GPSセンターのGPS端末は、現在地だけでなく、10分ごとの自動測位によって移動経路を確認できます。今回のような長距離・長時間の演習を通して、実際の徘徊・行方不明時にどのように見えるのか、どのように活用できるのかを確認することは、ご家族や関係者の安心にもつながると考えています。

ということで、今回の富士五湖100km徘徊演習は無事終了です。

足はかなり疲れましたが、GPS端末は最後までしっかり働いてくれました。湖と山に囲まれた富士五湖での演習結果が、認知症による徘徊で不安を抱えているご家族や関係者の方にとって、少しでも参考になればと思います。

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