認知症徘徊コラム

認知症に優しい街「神戸モデル」とは?

 総務省統計局によると、2025年9月現在の我が国の現在の高齢者人口は3,619万人、総人口に占める割合は29.4%と言う結果が出ています。
前年に比べ高齢者人口は5万減少しましたが、総人口に占める割合は1950年以降一貫して上昇しており、今年も0.1%上昇し過去最高を更新しました。また、65歳以上人口割合は我が国が世界で1位という結果になりました。

 近年の高齢化は、社会や経済など多岐にわたる影響を及ぼしていくと言われており、その中でも「認知症」は非常に大きな課題になっています。 
そういった課題を、早期に対応すべく神戸市では「神戸モデル」と言う施策がスタートしました。

 今回の記事では、認知症の人にやさしい街づくりを目指した「神戸モデル」について、分かりやすく紹介しています。

ぜひ、最後まで読んでみてください。

1.「神戸モデル」とは?

 神戸モデルは、神戸市が認知症対策として2019年(平成31年)より開始した新しい制度です。

公式のホームページによると
 ”認知症の方やそのご家族が安心・安全に暮らしていけるよう、65歳以上の市民を対象に早期受診を支援する「診断助成制度」と、認知症の方が外出時などで事故に遭われた場合に救済する「事故救済制度」を組み合わせて実施する制度”

となっており全国初の取り組みになります。

財源は個人市民税均等割の上乗せ(一人当たり年間400円)でまかなっています。

以下、二つの制度について解説します。

● 診断助成制度

 診断助成制度とは、65歳以上の方を対象に早期受診を支援する制度です。

第一段階では、地域の医療機関で「認知機能検診」を受け、認知症疑いの有無を無料で診てもらいます。

精密検査が必要な場合、第二段階として専門の医療機関で「認知機能精密検査」を受けることができます。
こちらも、検査費用の自己負担分を市が助成してくれるので、気軽に受けることができます。

以上の段階を経て「認知症」と診断された場合は「事故救済制度」の賠償責任保険に加入できます。

● 事故救済制度

 事故救済制度には、診断助成制度の受診で「認知症」と診断された方が事故を起こし賠償責任を負われた場合に備え、神戸市が保険料を負担して賠償責任保険に加入できる制度や、認知症の方が起こした事故で被害に遭われた市民の方へ、市から最高3,000万円の見舞金(給付金)を支給する制度があります。

 認知症患者の徘徊による列車事故などで、鉄道会社から損害賠償を請求された事案(認知症の徘徊における事故事例とリスク|防ぐための見守り策とは?)もあるため、認知症患者を持つ家族にとって非常に心強い救済制度なのではないでしょうか。

また、神戸モデルには住所が分からなくなったなったら駆けつけてくれる「GPS安心かけつけサービス」(一部有料)もあります。

GPS機器と事故救済制度があれば、認知症と診断されても安心してお出かけを楽しむことができますね。

2.導入の背景

神戸モデルの導入背景には以下があります。
● 認知症高齢者の増加
● 徘徊や行方不明の増加

 日本は急速に高齢化が進んでおり、認知症患者の増加が社会的課題となっています。

神戸市では長田区、須磨区などの地域で高齢化率が特に高く、認知症に伴う「徘徊」や行方不明事案が多くあるようです。

 また、阪神・淡路大震災の経験から「災害時だけでなく日常生活においても、地域全体で住民を支えるシステムが必要」という教訓をもとに、認知症の方を地域で支える仕組みの構築を目指しました。

3.利用者の声

 公式サイトの利用者の声を見てみましょう。

診断助成制度を利用

● 気軽に受診できる
● 家族に受診を勧めやすい
● きちんと診断がついてよかった

などといった声があります。
物忘れや認知機能の低下が気になったり、家族に勧められたりしたことをきっかけに受診する方が多いようです。

事故救済制度を利用

 申し込み理由として
● 安心して出かけたいから
● 自己負担がないから

など、外出する際の不安を少しでも軽くしたいという気持ちから利用している方が多いようです。

4.認知症の徘徊への効果

 神戸モデルの制度を利用することにより、どんな効果が期待できるか考えてみました。

認知症の早期発見

● 受診により認知症の早期発見が可能
● 状態に合った認知症対策がしやすい
● 診断名がつくことにより精神的な負担の軽減

GPSの利用

● 行方不明時に迅速な発見ができる
● 徘徊リスクの減少と事前対応ができる
● 行動パターンなどの情報を把握することで徘徊傾向を早期に察知

事故や危険の防止

● 徘徊が原因での事故や命に関わる事態を未然に防ぎやすくなる

地域や社会全体での連携

● 地域で包括的な支援強化ができる
● GPS情報だけでなく目撃情報も共有できる
● 地域の協力を得ることで短時間での保護や捜索が可能
● 住民や公共交通機関などが「みまもり隊」として連携

5.その他メリット

● 地域住民の意識啓発

 地域住民や企業などが「認知症」というものを身近に感じることができ、意識啓発にもなるのではないでしょうか。

● 全国で再現しやすい

 神戸モデルをベースに他の自治体が施策、再現しやすい環境が得られるのではないかと感じます。

● 長期的な支援体制の確立

 個人より地域全体で支援することで負担を軽減することができ、長期的な支援体制を確保しやすいメリットがあります。

6.まとめ

 認知症患者にとって安心して暮らせる施策の一つである「神戸モデル」は、さまざまな支援を含めて地域全体で包括的に見守るネットワークを併せもった先進的な支援といえます。
徘徊に対しても、早期発見と事故防止、徘徊リスクの予測が可能になり、認知症高齢者の生活の質を向上させるのに、大きな効果を発揮していくことが期待できます。
 また、神戸モデルで認知機能の低下が認められなかった場合や即日利用したい時など、弊社では制限なくGPS機器のレンタルができます。
「認知症の徘徊」に特化しており、急な利用や旅行などの限定的な利用でも使いたいシーンにおいて短期間〜長期間まで幅広く対応しています。

 今回の神戸モデルの導入により「認知症」というものを多くの方に身近なものと感じるとともに、認知症の本人が安心・安全、そして自立的な生活を送る環境が整えられると良いのではないかと感じました。
そして家族の負担軽減、地域社会全体での支援の充実が、神戸モデルをはじめとして全国的に実現していくことに今後期待していきたいものです。

参考
認知症の人にやさしいまち 神戸モデル
総務省統計局 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで
公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
神戸市の国民健康保険事業の運営に関する協議会令和5年度第1回専門部会

https://www.ninchisho-haikai-gps.com/gps_rn/wp-content/themes/cure_tcd082/img/common/no_avatar.png

執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士としてデイケアで働きながら、介護職の楽しさを発信するためWEBライターとしても活動中。読みやすく分かりやすい文章を目指して頑張っています!

関連記事